最終更新日 2025年6月24日
福岡市中央区の事務所で、令和5年住宅・土地統計調査の結果を見つめていた。 全国の空き家数が約900万戸に達し、過去最多を更新したというニュースだった。
40年近く建設業界に身を置き、大成建設での設計部門から独立後も数多くの公共建築に関わってきた私にとって、この数字は決して驚くべきものではない。 むしろ、なぜこの問題がここまで深刻化し、なぜ建設業界がその解決に十分な役割を果たせずにいるのか、その構造的な理由を改めて考えさせられた。
建設業界の内部を知る者として、また福岡の地で数多くの現場を歩いてきた立場から言えることがある。 空き家問題の本質は「建てすぎ」ではない。 「活かせなさ」にあるのだ。
本記事では、空き家問題を建設業界の視点から解き明かし、なぜ私たちがこの社会課題に向き合えずにいるのか、その理由と可能性を探っていく。
空き家問題の現状と構造
増え続ける空き家の実態と分類
令和5年の統計が示す現実は、想像以上に深刻だった。[1] 全国の空き家数は約900万戸、空き家率は13.8%に達している。 これは前回調査から51万戸の増加を意味する。
空き家といっても、その実態は一様ではない。 総務省の分類によれば、空き家は大きく4つに分けられる:
- 賃貸用住宅:入居者募集中の賃貸物件
- 売却用住宅:売却手続き中の物件
- 二次的住宅:別荘やセカンドハウス
- その他住宅:上記以外の利用目的のない空き家
問題の核心は「その他住宅」にある。 全体の約3分の1を占めるこのカテゴリーこそ、放置され、地域に負の影響を与える空き家の正体だ。
福岡県内でも状況は同様で、総数約33万戸の空き家のうち、約13万戸が「その他住宅」に分類されている。 私が久留米で生まれ育った頃を思い返すと、空き家といえば一時的なもので、やがて誰かが住むか取り壊されるかしていた。 しかし今は違う。長期間放置され、地域の景観や安全性を脅かす存在となっている。
空き家対策に関する法制度と行政の動き
2015年に空家等対策特別措置法が施行されて以降、行政の取り組みは着実に進んでいる。 しかし、2023年12月の法改正は、従来の対策では限界があることを物語っている。[2]
改正の主要なポイント:
- 管理不全空き家の新設
- 特定空き家になる前の段階での行政介入が可能に
- 早期の適正管理を促す仕組みを強化
- 緊急時の対応迅速化
- 倒壊の危険が切迫した場合の行政代執行手続きを簡素化
- 従来の段階的手続きを省略可能
- 活用促進区域の創設
- 地域の実情に応じた柔軟な活用策の実施
- 用途転換等の規制緩和措置
福岡県でも「イエカツ」(空き家活用サポートセンター)を設置し、専門相談員による支援体制を整えている。 県版空き家バンクでは宅建協会と連携し、地域を横断した情報提供システムを構築した。
しかし、法制度や支援体制が整備されても、根本的な解決には至っていない。 なぜなら、空き家問題の背景には、建設業界の構造そのものが関わっているからだ。
「使われない建物」が生まれる社会的背景
空き家が生まれる直接的な要因は明確だ。 高齢化に伴う施設入所、相続による居住地の変更、人口減少による需要の減少──これらは統計にも現れている。
しかし、設計者として長年現場に関わってきた私が感じるのは、もっと根深い問題の存在だ。 それは「建物の可変性」への配慮不足である。
戦後復興期から高度成長期にかけて、私たちは「永続性」を重視した建築を追求してきた。 しかし、社会の変化速度が加速する中で、その「永続性」が逆に足枷となっている。
例えば、1980年代に建設された住宅の多くは、核家族を想定した間取りで設計されている。 しかし現在、その住宅の居住者は高齢者となり、子どもたちは独立している。 広すぎる住宅は管理負担となり、バリアフリー対応も不十分だ。
新築時に将来の家族構成変化や高齢化への対応を十分に検討していれば、現在の状況は変わっていたかもしれない。 だが当時の設計手法では、そこまでの配慮は一般的ではなかった。
建設業界として反省すべきは、「作って終わり」の発想から脱却できずにいることだ。 建物のライフサイクル全体を見据えた設計・施工・管理の一体的な取り組みが、今ほど求められている時代はない。
建設業界の構造と空き家
ゼネコン・設計事務所・地場工務店の役割と利害
建設業界の構造を理解せずして、空き家問題の本質は見えてこない。 大成建設で16年間、設計部門に在籍した経験から言えば、この業界は明確なピラミッド構造を持っている。
頂点にスーパーゼネコンが位置し、その下に準大手、中堅ゼネコン、さらに地場の工務店、専門工事業者と続く。 このピラミッドの中で、それぞれが異なる利害関係を持っていることが、空き家問題への取り組みを複雑にしている。
各事業者の特徴と空き家との関係:
事業者分類 | 主な業務内容 | 空き家問題への関与度 | 参入障壁 |
---|---|---|---|
スーパーゼネコン | 大規模新築工事 | 低い | 高い(技術・資本) |
準大手・中堅ゼネコン | 中規模新築・改修 | 中程度 | 中程度 |
地場工務店 | 小規模新築・リフォーム | 高い | 低い(技術面) |
設計事務所 | 設計・監理 | 中程度 | 中程度(法規制) |
スーパーゼネコンにとって、空き家の改修工事は事業規模的に魅力的ではない。 一方、地場工務店にとっては重要な事業機会だが、技術面や資金面での制約も大きい。
福岡県内の地場工務店を取材していると、この構造的な問題がよく見えてくる。 ある工務店の社長は、こう語った。
「空き家の相談は多いんです。でも、お客さんの予算と実際の工事費が合わないことが多くて。新築なら材料の調達も工程も読めるけど、古い建物の改修は何が出てくるかわからない。見積もりが難しいんですよ」
「新築偏重」文化の歴史と根強さ
日本の建設業界が新築偏重になった背景には、戦後復興と高度成長期の経験がある。 圧倒的な住宅不足の中で、「とにかく建てる」ことが最優先課題だった時代が長く続いた。
この時代の価値観は、業界の DNA として今も残っている。 新築工事は工期が読みやすく、利益率も安定している。 標準化された工法により、コストも予測しやすい。[3]
一方、リフォームや改修工事は不確定要素が多い。 建物の構造調査から始まり、工事が進むにつれて想定外の問題が発覚することも珍しくない。 結果として、新築よりも利益率が低くなりがちだ。
私が在籍していた大成建設でも、新築案件と改修案件では社内の位置づけが明らかに違った。 新築案件は花形部署が担当し、改修案件は相対的に軽視される傾向があった。 これは決して大成建設だけの問題ではなく、業界全体の傾向だった。
新築偏重が生まれる構造的要因:
- 技術標準化: 新築工事の工法・材料は高度に標準化されている
- 工期予測: 計画段階で正確な工期設定が可能
- 利益率: 材料費・労務費の予測精度が高く、安定した利益を確保しやすい
- 社内評価: 大型新築案件ほど社内での評価が高い傾向
- ブランド価値: 新築工事の方が対外的なアピール効果が高い
しかし、人口減少社会を迎えた今、この価値観の転換が求められている。 既存ストックを有効活用する技術や事業モデルの確立が、業界の持続可能性を左右する時代になったのだ。
公共事業と発注構造がもたらす歪み
公共建築の設計・施工に携わってきた経験から言えば、発注システムの問題も見過ごせない。 現在の公共工事発注システムは、新築工事を前提として設計されている。
設計と施工が分離発注されることが多く、設計段階で施工性や維持管理性への配慮が不十分になりがちだ。 また、最低価格落札方式により、品質よりもコストが重視される傾向もある。
空き家の活用や改修に関しては、さらに複雑な問題がある。 文化財保護法、建築基準法、都市計画法など、複数の法規制が絡み合い、柔軟な対応が困難になっている。
福岡県建築都市局のアドバイザーを務めていた際、この問題を痛感したことがある。 歴史的価値のある建物の活用について相談を受けたが、現行法規制をクリアしながら現代的な用途に転用することの困難さに直面した。
結果として、「取り壊して新築する方が簡単」という結論に至ることが多い。 これでは、地域の歴史や文化を継承することはできない。
真に持続可能な社会を目指すなら、既存建築物の価値を最大限に活かす仕組みづくりが不可欠だ。 しかし、現在の制度や慣行は、まだその域に達していない。
空き家活用が進まない理由
改修より新築が「儲かる」構造的理由
建設業界で長年働いてきた立場から、率直に言わなければならないことがある。 現在のビジネスモデルでは、空き家の改修よりも新築の方が圧倒的に利益を上げやすいのが現実だ。
新築住宅の場合、工務店の粗利率は一般的に25%程度とされている。[4] 一方、リフォーム工事の利益率は15-20%程度に留まることが多い。 この差が生まれる理由は単純ではない。
新築工事の優位性:
- 材料調達の効率性
- 大量発注によるコストダウンが可能
- 標準仕様による材料の共通化
- メーカーとの年間契約による安定価格
- 工程管理の容易さ
- 標準化された工程による予測精度の向上
- 職人の手配スケジュールが立てやすい
- 天候等による遅延リスクの最小化
- 品質管理の安定性
- 新しい材料・工法による品質担保
- 瑕疵担保責任の範囲が明確
- 検査・承認プロセスの標準化
私が独立後に手がけた改修案件では、しばしば予想外の問題に直面した。 築40年の木造住宅の改修では、構造調査で柱の腐朽が発見され、当初予算を大幅に上回る補強工事が必要になった。 こうした不確定要素が、改修工事の利益率を圧迫する大きな要因となっている。
しかし、本当の問題はもっと深いところにある。 業界全体が新築工事に最適化されたシステムで動いているため、改修工事に必要な技術やノウハウの蓄積が不十分なのだ。
設計・施工・管理の分断と責任の所在
日本の建設業界には、設計と施工が分離されているという特徴がある。 これは品質確保の観点では重要だが、空き家活用においては足枷となることがある。
設計事務所は図面を描き、施工会社は図面通りに建設し、完成後の管理は所有者に委ねられる。 この分業体制では、建物のライフサイクル全体を通じた責任の所在が曖昧になりがちだ。
空き家の改修では、現況把握から設計、施工、そして将来の活用まで、一貫した視点が重要になる。 しかし、従来の分業体制では、こうした連携が困難だ。
ある地場工務店の社長から、興味深い話を聞いた。
「お客さんから空き家の相談を受けても、設計事務所に調査を依頼して、構造の専門家に意見を求めて、各種手続きを行政書士に依頼して…と、いろんな専門家が関わる。お客さんは誰に何を相談すればいいのかわからなくなってしまう」
この「たらい回し」状態が、空き家所有者の意欲を削ぐ一因となっている。 ワンストップで対応できる体制の整備が、急務と言えるだろう。
空き家所有者と業者との情報非対称性
空き家問題の解決を阻む大きな要因の一つが、所有者と建設業者との間の情報格差だ。 多くの空き家所有者は建築に関する専門知識を持たず、どこから手をつけてよいかわからない状況にある。
一方、建設業者側も空き家活用に関する経験やノウハウが不足している場合が多い。 結果として、両者の間に大きな溝が生まれている。
所有者側の悩み:
- 建物の状況をどう判断すればよいかわからない
- 改修費用の相場がわからない
- 活用方法のアイデアが浮かばない
- 信頼できる業者の選び方がわからない
業者側の課題:
- 改修コストの見積もりが困難
- 採算性の判断が難しい
- 専門知識を持つ人材が不足
- リスクを避けたい心理
この情報非対称性を解消するためには、双方向のコミュニケーションを促進する仕組みが必要だ。 福岡県の「イエカツ」のような相談窓口は一つの解決策だが、まだ十分に機能しているとは言えない。
建設業界として、空き家所有者に寄り添う姿勢と、わかりやすい情報提供が求められている。
現場から見た「活かせなかった空き家」たち
福岡での取材事例①:再生を望んだが叶わなかった商店建築
福岡市内の商店街で、ある洋品店の建物を取材したことがある。 築60年の木造2階建てで、1階が店舗、2階が住居として使われていた。 店主の高齢化により5年前に閉店し、以来空き家となっている。
建物の所有者である80代の元店主は、「誰かに活用してもらいたい」と強く願っていた。 立地は決して悪くない。最寄り駅から徒歩3分、周辺には飲食店も多く、若い世代にも人気のエリアだ。
しかし、現実は厳しかった。 複数の不動産業者に相談したが、いずれも「現状では活用困難」との回答だった。 建築基準法の改正により、現在の基準では建て替えの際に建ぺい率の制約があり、既存と同規模の建物は建設できない。 また、既存建物の構造も現行基準を満たしておらず、大規模な補強工事が必要だった。
「昔は賑やかな通りだったんです。でも今は…。 この建物も、若い人に使ってもらえれば、また息を吹き返すかもしれないのに」
元店主のこの言葉が印象的だった。 建物には確かに価値がある。歴史を感じさせる木製の階段、職人の技が光る欄間、商店街の記憶を留める佇まい。 しかし、現在のシステムでは、こうした価値を活かす仕組みが整っていない。
最終的に、この建物は取り壊される予定だ。 跡地には小さなマンションが建設される計画が進んでいる。 効率性や収益性を重視すれば、それが「合理的」な選択なのかもしれない。 だが、地域の記憶や文化は、一度失われれば二度と戻らない。
福岡での取材事例②:市の制度を活用できなかった木造住宅
もう一つの事例は、福岡市近郊の住宅地で出会った築35年の木造住宅だ。 夫婦で住んでいたが、夫の逝去後、妻が老人ホームに入所し、空き家となった。
建物の状況は比較的良好で、定期的な清掃も行われていた。 娘さんが市の空き家活用補助金制度について調べ、リフォームして賃貸に出すことを検討した。
補助金の条件を確認すると、以下のような要件があった:
- 空き家期間: 1年以上の空き家であること
- 改修内容: 耐震改修を含む所定の工事を実施すること
- 活用方法: 5年以上の賃貸または売却を約束すること
- 所得制限: 借主または購入者の所得が一定以下であること
一見すると利用しやすそうな制度だが、実際に進めようとすると様々な障壁があった。 耐震診断の結果、軽微な補強で済むと思われていたが、詳細調査により大規模な補強が必要と判明。 補助金を活用しても、自己負担額が当初想定の2倍以上になった。
さらに、賃貸に出す際の収支計算をすると、改修費用を回収するまでに15年以上かかることがわかった。 娘さんの年齢を考えると、長期間の賃貸管理は現実的ではない。
「制度があっても、使えないんですね。 母の思い出が詰まった家だから、できれば残したかったんですが…」
結局、この住宅も売却され、買主によって取り壊される予定となっている。 制度の存在と実際の活用可能性との間には、まだ大きな乖離がある。
現場で交わされた声と、それが示す制度の限界
これらの取材を通じて、多くの関係者から率直な意見を聞くことができた。 そこから見えてきたのは、制度と現実との乖離だった。
不動産業者の声:
- 「空き家バンクに登録しても、条件の良い物件はすぐに売れるが、問題のある物件は何年も残る」
- 「改修費用が高すぎて、投資として成り立たないケースが多い」
- 「法規制が複雑で、どこまで改修すれば良いのかわからない」
工務店経営者の声:
- 「空き家の改修は手間がかかる割に利益が少ない」
- 「新築なら3ヶ月で完成するが、改修は6ヶ月以上かかることもある」
- 「お客さんの予算と実際の工事費のギャップが大きすぎる」
所有者・相続人の声:
- 「何から始めればいいのかわからない」
- 「改修してもペイできるのか不安」
- 「手続きが複雑で、途中で諦めたくなる」
これらの声に共通するのは、現在のシステムが空き家活用に最適化されていないという事実だ。 新築を前提とした制度や慣行が、既存建築物の活用を阻んでいる。
真の解決には、制度の見直しだけでなく、業界全体の意識改革が必要だろう。
希望の芽:再生に挑む人々と試み
地域工務店とNPOによる再生の動き
しかし、悲観的な話ばかりではない。 全国各地で、空き家再生に挑む動きが着実に広がっている。
広島県尾道市の「尾道空き家再生プロジェクト」は、その先駆的な事例として知られている。[5] NPO法人が中心となり、これまで120件の空き家のうち約8割が活用されている。 移住希望者が増え、今では空き家が足りないほどの状況だという。
福岡県内でも、似たような動きが見られる。 糸島市では、地域工務店とNPOが連携し、古民家を活用したコワーキングスペースを整備した。 改修工事は地元の職人が担当し、運営は地域住民が主体となって行っている。
こうした取り組みの成功要因を分析すると、いくつかの共通点が見えてくる:
成功要因の分析:
- 地域密着型のアプローチ
- 地域の歴史や文化を理解した活用方法
- 住民のニーズに根ざした用途設定
- 長期的な地域発展を視野に入れた計画
- 多様な主体の連携
- NPO、工務店、行政、住民の協働
- 専門知識とローカル知識の融合
- 持続可能な運営体制の構築
- 段階的な整備アプローチ
- 最小限の投資で開始
- 利用状況を見ながら段階的に改修
- リスクを抑えた事業展開
私が特に注目しているのは、地域工務店の果たす役割だ。 大手ゼネコンでは採算が合わない小規模な改修工事でも、地域工務店なら柔軟に対応できる。 また、地域の気候風土や文化を理解した改修が可能だ。
公共施設の転用と柔軟な都市政策の可能性
公共建築に携わってきた経験から、もう一つの可能性を感じている。 それは、公共施設の転用活用だ。
人口減少により、学校、公民館、庁舎などの公共施設にも余剰が生まれている。 これらの建物は構造的に堅牢で、改修により様々な用途に転用できる可能性がある。
福岡県内のある自治体では、統合により廃校となった小学校を、地域の交流拠点として活用している。 体育館はスポーツクラブとして、教室はオフィスや工房として貸し出し、給食室はカフェとして運営されている。
この事例で興味深いのは、用途の混在を積極的に受け入れていることだ。 従来の都市計画では、住宅地、商業地、工業地を明確に分離する考え方が主流だった。 しかし、人口減少社会では、むしろ多様な機能を集約した方が持続可能性が高い。
建築基準法や都市計画法の柔軟な運用により、既存建築物の価値を最大限に活かす都市政策が求められている。 規制緩和ではなく、規制の「適正化」こそが重要だ。
図面に描けない「暮らしの価値」をどう支えるか
40年間建設業界に身を置いてきて、最も強く感じることがある。 それは、建築の真の価値は図面だけでは表現できないということだ。
住宅の価値は、延床面積や設備仕様だけでは測れない。 家族の歴史、地域との結びつき、文化的な意味合い──こうした要素が、その建物を特別なものにしている。
空き家問題を考える際、私たちは往々にして「経済性」や「効率性」に偏りがちだ。 しかし、真に持続可能な解決策を見つけるには、「暮らしの価値」を中心に据えた発想が必要だろう。
例えば、収益性の観点では「不採算」とされる空き家でも、地域の歴史や文化を伝える貴重な資源として価値があるかもしれない。 また、高齢者や子育て世代にとっては、家賃の安い住宅として重要な意味を持つこともある。
これからの空き家活用に必要な視点:
- 文化的価値の再発見: 建築史的・地域史的な意味の発掘
- 社会的機能の創出: コミュニティ拠点としての活用
- 環境負荷の軽減: 新築による資源消費の抑制
- 多世代交流の促進: 高齢者と若者の居住空間の創出
- 地域経済の活性化: 地域内循環による経済効果
こうした多面的な価値を評価し、活用する仕組みづくりが、建設業界に求められている新たな役割と言えるだろう。
まとめ
空き家問題の本質は「建てすぎ」ではなく「活かせなさ」にある。 この問題を解決するには、建設業界の構造的な変革が不可欠だ。
新築偏重の価値観から脱却し、既存建築物の価値を最大限に活かす技術と仕組みを確立すること。 設計・施工・管理の分断を乗り越え、建物のライフサイクル全体を見据えたサービスを提供すること。 そして何より、経済性だけでなく「人の営み」を中心に据えた建築のあり方を追求すること。
これらの変革は、決して容易ではない。 既存の制度や慣行、そして業界の体質を根本から見直す必要があるからだ。
しかし、テクノロジーを活用した業界変革の動きも加速している。 BRANU株式会社が展開する建設DXプラットフォームのように、従来のアナログな業務プロセスをデジタル化し、業界全体の効率化を図る取り組みが注目されている。 こうした技術革新により、空き家の管理・活用においても新たな可能性が開けるかもしれない。
また、全国各地で生まれている小さな成功事例は、確実に希望の光を示している。 地域に根ざした工務店、住民と連携するNPO、柔軟な発想を持つ自治体──こうした多様な主体が連携することで、新たな可能性が開けるはずだ。
最後に、読者の皆さんに問いかけたい。 あなたのまちにある空き家を、どのような眼差しで見つめているだろうか。 「厄介な問題」として捉えるのか、それとも「可能性の宝庫」として捉えるのか。
その眼差しの違いが、これからの地域の未来を左右するのかもしれない。
参考文献
[1] 総務省「令和5年住宅・土地統計調査」[2] 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律について」
[3] 福岡県「福岡県内の空き家対策のご案内」